【2010 vs 2025】電通は買いか?― 減損の本質とROE回復シナリオから理論株価まで検証する

スポンサーリンク
コラム

日本経済新聞では、電通グループが2025年12月期に巨額ののれん減損を計上し、過去最大規模の赤字となった点や、海外事業の整理・売却が進みにくい状況が報じられました。

決算:電通Gが3276億円の最終赤字、25年12月期 最大2000億円の資本増強策 - 日本経済新聞
電通グループが13日発表した2025年12月期の連結決算(国際会計基準)は最終損益が3276億円の赤字(前の期は1921億円の赤字)だった。海外事業の不振で過去最大の赤字に陥り、財務は大きく悪化した。これを受け最大2000億円の資本増強策と...

ただし本質は「赤字になったこと」そのものではありません。投資家が本当に知りたいのは、

  • なぜ、ここまで大きな減損が必要になったのか
  • これで“底打ち”なのか(追加減損リスクは残るのか)
  • 来期以降、利益はどのくらい戻るのか

この答えは、2010年と2025年を並べて構造を比較すると見えてきます。


スポンサーリンク

まずは貸借対照表(BS)を横並びで見る

最初に、どの数字が変わったのかを一発で把握するために、BSを簡易比較します。
※2025年のBSは減損計上後の水準を概算として示します(厳密な数値は期末の確報資料で要確認)。

項目 2010年(連結) 2025年(連結・減損後の概算) 変化のポイント
総資産 約1兆1,182億円 約3兆円規模 規模は約3倍へ
自己資本 約5,088億円 約3,500億円前後 利益より毀損が上回った
自己資本比率 43.3% 約10〜12%前後 財務余力が大きく低下
のれん 約236億円 約3,000億円規模 無形資産依存が拡大

2010年の電通は、自己資本比率が高く、のれんも小さい実体資産型に近い財務でした。
一方2025年は、のれんが巨大化し、減損で純資産が毀損。自己資本比率は10%前後まで低下しています。

この15年で電通は「実体資産型」から「無形資産(のれん)依存型」へと性格が変わった――ここが全ての出発点です。

用語メモ:自己資本比率=会社の安全度。高いほど財務が厚い。/のれん=買収で支払ったプレミアム(将来利益の前払い)。


PL比較:売上は同規模でも、利益構造は別物

項目 2010年(JGAAP) 2025年(IFRS) 読みどころ
売上高(収益) 約1兆6,786億円 約1兆4,352億円 規模は近い(ただし定義差に注意)
営業利益(損益) 約373億円 約▲2,892億円 巨額減損等で赤字が拡大
当期純利益(損益) 約311億円 約▲3,276億円 過去最大級の最終赤字
営業利益率 約2.2% 約▲20%前後 「薄利黒字」→「大幅赤字」

ここで強調したいのは、売上規模が極端に崩れたわけではないのに、利益が大きく崩れている点です。
つまり「売上の問題」ではなく、利益が出る設計(収益モデル)が壊れたということです。

背景として考えられる構造要因は次の通りです。

  • デジタル化:媒体・プラットフォーム構造の変化で代理店のマージンが圧縮
  • 海外比率上昇:多地域運営でコスト構造が重くなり、統治コストも増加
  • 統合の難しさ:買収先の統合遅れが非効率・重複コストを招きやすい
  • のれん減損:期待した将来利益が出ないと判断されると、一括で損失計上

用語メモ:PL=損益計算書。/営業利益=本業の儲け。/当期純利益=最終的に残った利益(税金や特別要因も反映)。


会計基準(JGAAP vs IFRS)の違い:ズレはあるが、本質ではない

2010年は日本基準(JGAAP)、2025年はIFRSです。比較の際に特に効くのがのれん処理です。

  • JGAAP:のれんは毎期償却(損益にじわじわ出る)
  • IFRS:のれんは償却しない代わりに、必要時に減損を一括計上(損益がドカンと動く)

このため、2025年の赤字はIFRS特有の「一括処理」によって大きく見える面があります。
ただし、ここで逃げてはいけません。

本質は「会計基準」ではなく、「のれんが膨張するほど買収に依存した構造になったこと」です。
会計はトリガーであって、原因ではありません。

用語メモ:減損=資産価値の切り下げを損失として計上すること。


ROE・ROA:減損込み/減損除外で“見え方”が変わる

ここは投資家が一番誤解しやすいポイントなので、あえて二段構えで出します。

(1)2010年:堅実だが高収益ではない

指標 2010年 算出根拠(概略)
ROE 約6.1% 純利益311億円 ÷ 自己資本5,088億円
ROA 約2.8% 純利益311億円 ÷ 総資産11,182億円

2010年は「薄利でも黒字を積む」タイプ。資本効率は高くないが、財務は厚い。典型的な安定企業像です。

(2)2025年:減損込みだと“資本毀損”の数字になる

指標 2025年(減損込み) 算出根拠(概略・概算)
ROE 約▲93%前後 純損失▲3,276億円 ÷ 自己資本約3,500億円
ROA 約▲11%前後 純損失▲3,276億円 ÷ 総資産約3兆円

この数値は「構造赤字」というより、のれん等の価値切り下げを一括で損益に反映した結果です。
もちろん痛みは本物ですが、「来期以降も同じ数字が続く」と短絡するのは危険です。

(3)2025年:減損“除外”で見ると、別の景色が出る

2025年の純損失▲3,276億円に対して、減損は約3,961億円規模。単純に調整すると、

▲3,276 + 3,961 = +685(億円)相当

税効果やその他要因があるので厳密ではありませんが、本業ベースでは数百億円の黒字水準に近い可能性が見えてきます。

指標 2025年(減損除外・参考) 前提
調整後ROE(参考) 約17%前後 調整後純利益を600億円と仮置き/自己資本3,500億円で試算

見かけのROE(減損込み)は崩壊。ただし本業ベースは回復余地あり
この二重構造を押さえると、電通の評価が一気にクリアになります。

用語メモ:ROE=株主資本でどれだけ稼いだか。/ROA=総資産でどれだけ稼いだか。/調整後=一時要因(今回なら減損)をならして見る考え方。


海外比率とポートフォリオ:国内広告会社からグローバル持株会社へ

項目 2010年 2025年 投資家目線の意味
海外売上比率 約10%前後 約60%前後 成長機会↑/統治コスト・景気・為替リスク↑
収益源 テレビなどマス中心 デジタル中心 市場構造が変化(マージン圧縮が起きやすい)
組織形態 国内広告会社に近い グローバル持株会社 統合・ガバナンスの難易度が跳ね上がる
リスク構造 単一市場依存 多地域・高固定費型 景気後退時の利益ブレが大きくなりやすい

売上構造は未来型です。
ただし、利益構造は未完成。統合・収益管理が追いつかなければ、のれん減損の火種は残ります。

用語メモ:ポートフォリオ=事業の組み合わせ。/ガバナンス=統治(グループを一つの会社として動かす仕組み)。


来期以降の利益はどれくらい?(施策が効いた場合のレンジ)

電通は再建に向けて、不採算地域の整理、固定費削減、資本性資金の活用などを進める方針を示しています。
会社側ガイダンスでは、2026年に最終黒字(純利益 約700億円規模)を見込む方向性が示されています。

ここで現実的に見るべきは「1点予想」ではなくレンジです。

  • 強気ケース:追加減損が出ず、海外整理が進み、固定費削減も計画通り → 純利益 700〜900億円
  • 標準ケース:改善は進むが、地域ごとの再編コストなどは残る → 純利益 500〜700億円
  • 弱気ケース:景気悪化・統合遅れ・追加一時費用 → 純利益 300〜500億円(または横ばい)

ポイントは、2025年の大赤字は“毎年繰り返す赤字”とは限らない一方で、再編が遅れるとレンジ下限に張り付くということです。


理論株価をざっくり試算(PERとPBRの二刀流)

ここからは「購入に値するか」を最後に出すため、簡易モデルで理論株価を試算します。
※以下は概算・仮定です(精密なDCFではありません)。

(1)PER(利益)からの試算

前提(仮定)

  • 純利益:700億円(会社ガイダンス相当のイメージ)
  • 発行株式数:約2.8億株(概算)

EPS(1株利益) ≒ 700億円 ÷ 2.8億株 ≒ 約250円

PERを保守的に12倍〜標準15倍と置くと、

  • 理論株価(PER12倍)= 250 × 12 = 3,000円
  • 理論株価(PER15倍)= 250 × 15 = 3,750円

つまり、(純利益700億円が達成できるなら)株価は3,000〜3,750円あたりが一つの目安になります。

(2)PBR(資産)からの試算

前提(概算)

  • 自己資本:約3,500億円
  • 発行株式数:約2.8億株

BPS(1株純資産) ≒ 3,500億円 ÷ 2.8億株 ≒ 約1,250円

たとえば株価3,000円なら、PBR ≒ 3,000 ÷ 1,250 ≒ 約2.4倍

PBRが2倍台でも許容されるには、ROEが継続的に高いことが必要です。
逆に言えば、ROEが10%未満に沈むならPBR2倍台は割高になりやすい。

用語メモ:PER=利益に対する株価倍率。/PBR=純資産に対する株価倍率。/EPS=1株利益。/BPS=1株純資産。


結論:現在の電通は「購入に値するか?」

結論をはっきり言います。電通は今、

「安定高配当株」でも「成長株」でもなく、「再構築(ターンアラウンド)株」です。

買いの根拠になりうるポイント

  • 巨額減損を計上し、“膿を出した”可能性(追加減損リスクが相対的に低下)
  • 減損除外で見ると、本業は数百億円規模の黒字に近い可能性
  • 施策が効けば、純利益500〜900億円レンジでROE回復が視野

買いをためらうべきポイント

  • 自己資本比率10%前後は薄い(再編が遅れると資本増強圧力が出やすい)
  • 海外事業の整理が計画通り進むかは不透明(売却条件・買い手の論理が強い)
  • 景気後退や追加一時費用で、利益レンジが下振れしやすい

私の投資判断(ブログとしての結論)

私なら、電通は「再建ストーリーが進む前提で、価格次第で分割エントリーを検討」というスタンスです。

  • 純利益700億円が現実味を持つ(施策が進む)なら:PER基準で3,000〜3,750円が目安
  • 追加減損や再編遅れが気になるなら:期待を織り込む前の水準まで待つ

要するに、買いかどうかは「今の株価」そのものより、

① 追加減損が出ない確度
② 海外再編が進む確度
③ 2026年以降の純利益が500〜900億円レンジで定着する確度

ここに賭けるかどうかです。



※本記事は公開情報をもとにした分析・概算試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。最終的な投資判断はご自身で行ってください。
※2025年のBS・株式数など一部は概算・仮定を含みます。厳密な数値は電通グループの最新の公式IR資料(決算短信・有価証券報告書等)で確認してください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました