日本経済新聞では、電通グループが2025年12月期に巨額ののれん減損を計上し、過去最大規模の赤字となった点や、海外事業の整理・売却が進みにくい状況が報じられました。
ただし本質は「赤字になったこと」そのものではありません。投資家が本当に知りたいのは、
- なぜ、ここまで大きな減損が必要になったのか
- これで“底打ち”なのか(追加減損リスクは残るのか)
- 来期以降、利益はどのくらい戻るのか
この答えは、2010年と2025年を並べて構造を比較すると見えてきます。
目次
まずは貸借対照表(BS)を横並びで見る
最初に、どの数字が変わったのかを一発で把握するために、BSを簡易比較します。
※2025年のBSは減損計上後の水準を概算として示します(厳密な数値は期末の確報資料で要確認)。
| 項目 | 2010年(連結) | 2025年(連結・減損後の概算) | 変化のポイント |
|---|---|---|---|
| 総資産 | 約1兆1,182億円 | 約3兆円規模 | 規模は約3倍へ |
| 自己資本 | 約5,088億円 | 約3,500億円前後 | 利益より毀損が上回った |
| 自己資本比率 | 43.3% | 約10〜12%前後 | 財務余力が大きく低下 |
| のれん | 約236億円 | 約3,000億円規模 | 無形資産依存が拡大 |
2010年の電通は、自己資本比率が高く、のれんも小さい実体資産型に近い財務でした。
一方2025年は、のれんが巨大化し、減損で純資産が毀損。自己資本比率は10%前後まで低下しています。
この15年で電通は「実体資産型」から「無形資産(のれん)依存型」へと性格が変わった――ここが全ての出発点です。
用語メモ:自己資本比率=会社の安全度。高いほど財務が厚い。/のれん=買収で支払ったプレミアム(将来利益の前払い)。
PL比較:売上は同規模でも、利益構造は別物
| 項目 | 2010年(JGAAP) | 2025年(IFRS) | 読みどころ |
|---|---|---|---|
| 売上高(収益) | 約1兆6,786億円 | 約1兆4,352億円 | 規模は近い(ただし定義差に注意) |
| 営業利益(損益) | 約373億円 | 約▲2,892億円 | 巨額減損等で赤字が拡大 |
| 当期純利益(損益) | 約311億円 | 約▲3,276億円 | 過去最大級の最終赤字 |
| 営業利益率 | 約2.2% | 約▲20%前後 | 「薄利黒字」→「大幅赤字」 |
ここで強調したいのは、売上規模が極端に崩れたわけではないのに、利益が大きく崩れている点です。
つまり「売上の問題」ではなく、利益が出る設計(収益モデル)が壊れたということです。
背景として考えられる構造要因は次の通りです。
- デジタル化:媒体・プラットフォーム構造の変化で代理店のマージンが圧縮
- 海外比率上昇:多地域運営でコスト構造が重くなり、統治コストも増加
- 統合の難しさ:買収先の統合遅れが非効率・重複コストを招きやすい
- のれん減損:期待した将来利益が出ないと判断されると、一括で損失計上
用語メモ:PL=損益計算書。/営業利益=本業の儲け。/当期純利益=最終的に残った利益(税金や特別要因も反映)。
会計基準(JGAAP vs IFRS)の違い:ズレはあるが、本質ではない
2010年は日本基準(JGAAP)、2025年はIFRSです。比較の際に特に効くのがのれん処理です。
- JGAAP:のれんは毎期償却(損益にじわじわ出る)
- IFRS:のれんは償却しない代わりに、必要時に減損を一括計上(損益がドカンと動く)
このため、2025年の赤字はIFRS特有の「一括処理」によって大きく見える面があります。
ただし、ここで逃げてはいけません。
本質は「会計基準」ではなく、「のれんが膨張するほど買収に依存した構造になったこと」です。
会計はトリガーであって、原因ではありません。
用語メモ:減損=資産価値の切り下げを損失として計上すること。
ROE・ROA:減損込み/減損除外で“見え方”が変わる
ここは投資家が一番誤解しやすいポイントなので、あえて二段構えで出します。
(1)2010年:堅実だが高収益ではない
| 指標 | 2010年 | 算出根拠(概略) |
|---|---|---|
| ROE | 約6.1% | 純利益311億円 ÷ 自己資本5,088億円 |
| ROA | 約2.8% | 純利益311億円 ÷ 総資産11,182億円 |
2010年は「薄利でも黒字を積む」タイプ。資本効率は高くないが、財務は厚い。典型的な安定企業像です。
(2)2025年:減損込みだと“資本毀損”の数字になる
| 指標 | 2025年(減損込み) | 算出根拠(概略・概算) |
|---|---|---|
| ROE | 約▲93%前後 | 純損失▲3,276億円 ÷ 自己資本約3,500億円 |
| ROA | 約▲11%前後 | 純損失▲3,276億円 ÷ 総資産約3兆円 |
この数値は「構造赤字」というより、のれん等の価値切り下げを一括で損益に反映した結果です。
もちろん痛みは本物ですが、「来期以降も同じ数字が続く」と短絡するのは危険です。
(3)2025年:減損“除外”で見ると、別の景色が出る
2025年の純損失▲3,276億円に対して、減損は約3,961億円規模。単純に調整すると、
▲3,276 + 3,961 = +685(億円)相当
税効果やその他要因があるので厳密ではありませんが、本業ベースでは数百億円の黒字水準に近い可能性が見えてきます。
| 指標 | 2025年(減損除外・参考) | 前提 |
|---|---|---|
| 調整後ROE(参考) | 約17%前後 | 調整後純利益を600億円と仮置き/自己資本3,500億円で試算 |
見かけのROE(減損込み)は崩壊。ただし本業ベースは回復余地あり。
この二重構造を押さえると、電通の評価が一気にクリアになります。
用語メモ:ROE=株主資本でどれだけ稼いだか。/ROA=総資産でどれだけ稼いだか。/調整後=一時要因(今回なら減損)をならして見る考え方。
海外比率とポートフォリオ:国内広告会社からグローバル持株会社へ
| 項目 | 2010年 | 2025年 | 投資家目線の意味 |
|---|---|---|---|
| 海外売上比率 | 約10%前後 | 約60%前後 | 成長機会↑/統治コスト・景気・為替リスク↑ |
| 収益源 | テレビなどマス中心 | デジタル中心 | 市場構造が変化(マージン圧縮が起きやすい) |
| 組織形態 | 国内広告会社に近い | グローバル持株会社 | 統合・ガバナンスの難易度が跳ね上がる |
| リスク構造 | 単一市場依存 | 多地域・高固定費型 | 景気後退時の利益ブレが大きくなりやすい |
売上構造は未来型です。
ただし、利益構造は未完成。統合・収益管理が追いつかなければ、のれん減損の火種は残ります。
用語メモ:ポートフォリオ=事業の組み合わせ。/ガバナンス=統治(グループを一つの会社として動かす仕組み)。
来期以降の利益はどれくらい?(施策が効いた場合のレンジ)
電通は再建に向けて、不採算地域の整理、固定費削減、資本性資金の活用などを進める方針を示しています。
会社側ガイダンスでは、2026年に最終黒字(純利益 約700億円規模)を見込む方向性が示されています。
ここで現実的に見るべきは「1点予想」ではなくレンジです。
- 強気ケース:追加減損が出ず、海外整理が進み、固定費削減も計画通り → 純利益 700〜900億円
- 標準ケース:改善は進むが、地域ごとの再編コストなどは残る → 純利益 500〜700億円
- 弱気ケース:景気悪化・統合遅れ・追加一時費用 → 純利益 300〜500億円(または横ばい)
ポイントは、2025年の大赤字は“毎年繰り返す赤字”とは限らない一方で、再編が遅れるとレンジ下限に張り付くということです。
理論株価をざっくり試算(PERとPBRの二刀流)
ここからは「購入に値するか」を最後に出すため、簡易モデルで理論株価を試算します。
※以下は概算・仮定です(精密なDCFではありません)。
(1)PER(利益)からの試算
前提(仮定)
- 純利益:700億円(会社ガイダンス相当のイメージ)
- 発行株式数:約2.8億株(概算)
EPS(1株利益) ≒ 700億円 ÷ 2.8億株 ≒ 約250円
PERを保守的に12倍〜標準15倍と置くと、
- 理論株価(PER12倍)= 250 × 12 = 3,000円
- 理論株価(PER15倍)= 250 × 15 = 3,750円
つまり、(純利益700億円が達成できるなら)株価は3,000〜3,750円あたりが一つの目安になります。
(2)PBR(資産)からの試算
前提(概算)
- 自己資本:約3,500億円
- 発行株式数:約2.8億株
BPS(1株純資産) ≒ 3,500億円 ÷ 2.8億株 ≒ 約1,250円
たとえば株価3,000円なら、PBR ≒ 3,000 ÷ 1,250 ≒ 約2.4倍
PBRが2倍台でも許容されるには、ROEが継続的に高いことが必要です。
逆に言えば、ROEが10%未満に沈むならPBR2倍台は割高になりやすい。
用語メモ:PER=利益に対する株価倍率。/PBR=純資産に対する株価倍率。/EPS=1株利益。/BPS=1株純資産。
結論:現在の電通は「購入に値するか?」
結論をはっきり言います。電通は今、
「安定高配当株」でも「成長株」でもなく、「再構築(ターンアラウンド)株」です。
買いの根拠になりうるポイント
- 巨額減損を計上し、“膿を出した”可能性(追加減損リスクが相対的に低下)
- 減損除外で見ると、本業は数百億円規模の黒字に近い可能性
- 施策が効けば、純利益500〜900億円レンジでROE回復が視野
買いをためらうべきポイント
- 自己資本比率10%前後は薄い(再編が遅れると資本増強圧力が出やすい)
- 海外事業の整理が計画通り進むかは不透明(売却条件・買い手の論理が強い)
- 景気後退や追加一時費用で、利益レンジが下振れしやすい
私の投資判断(ブログとしての結論)
私なら、電通は「再建ストーリーが進む前提で、価格次第で分割エントリーを検討」というスタンスです。
- 純利益700億円が現実味を持つ(施策が進む)なら:PER基準で3,000〜3,750円が目安
- 追加減損や再編遅れが気になるなら:期待を織り込む前の水準まで待つ
要するに、買いかどうかは「今の株価」そのものより、
① 追加減損が出ない確度
② 海外再編が進む確度
③ 2026年以降の純利益が500〜900億円レンジで定着する確度
ここに賭けるかどうかです。
※本記事は公開情報をもとにした分析・概算試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。最終的な投資判断はご自身で行ってください。
※2025年のBS・株式数など一部は概算・仮定を含みます。厳密な数値は電通グループの最新の公式IR資料(決算短信・有価証券報告書等)で確認してください。


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